スマートコントラクト(Smart Contract)とは、日本語でいうと「自動化された契約」という意味になります。ここでいう契約とは、契約書などの書類で交わされるような契約だけではなく、物を売り買いしたりなどの取引行動全般を指します。そしてスマートコントラクトとは、ブロックチェーン上で行われる様々な取引行動を自動的に実行するプログラムのことです。
目次
スマートコントラクトの特徴を簡単にいうと「自動販売機」
スマートコントラクトの特徴は「契約を完全に自動化することにより、従来の契約で必要となった時間やコストを削減できるほか、不正な取引を防止することができる」ことにあります。
例えば、スマートコントラクトの概念を理解するのに用いられる好例として「自動販売機」があります。
自動販売機では「硬貨を入れる」⇒「商品を選択する」⇒「商品が出てくる」という取引行動のプロセスが自動で動作するようプログラミングされています。
そのため人を介する有人店舗での買い物と比べて時間も短縮されているとともに、後から「100円ではなく200円を入れた」というような改ざんや、偽造硬貨による購入などの不正も行えないなど、ブロックチェーン技術におけるスマートコントラクトと同じ特徴を持っています。
スマートコントラクトのメリット①:トラストレス
スマートコントラクトの最大の長所は契約の相手を信用する必要性がなくなる「トラストレス」であることです。
これまでの書面で交わすような契約においては、契約相手を互いに信用し合うことが必要不可欠でした。
物品を購入するような契約の場合であれば、契約書に記載されている通りの要件を満たす物品を提供してくれるのか、あるいは契約書に書かれている金額を受け取れるのかを互いに信用する必要があり、かつ双方が契約書通りに義務を履行する必要がありました。だからこそ「信用」を逆手にとって相手をだます不正な契約が存在する余地が生まれます。
ですが、スマートコントラクトの場合には、ひとたび契約が成立すれば、以降の取引が自動で履行されることになるため、相手を信頼する必要がそもそもなくなるのです。自動販売機で飲み物を購入する場合も同様で、「この自動販売機はお金を入れたら飲み物を出してくれるのだろうか」という疑問をもつことはありません。
それは「自動販売機とはお金を入れたら自動で飲み物を出してくれる」というシステムだからです。
スマートコントラクトのメリット②:時間やコストの削減
従来の契約では契約の当事者がお互いを信用する必要がありましたが、もし相手を信用できなくとも契約を行いたい場合には、信用できる「仲介者」を置くことで契約を成立させることができました。
しかし仲介者を置くことで仲介手数料というコストが新たに必要になる上に、契約後の取引も仲介者を介して行う場合にはその分時間も余計にかかるというデメリットがありました。ですが、スマートコントラクトの場合にはそもそも互いを信用する必要がないために仲介者も不要となり、その分のコストを削減することができます。
また、従来の契約では相手の信用度を確かめる作業や契約を結ぶ作業、そして契約書が履行されているかを確認する作業などに時間とコストがかかっていましたが、スマートコントラクトではこれらが不要あるいは自動化されているために、ここにかかる時間やコストも不要となります。
スマートコントラクトのメリット③:不正取引の防止と取引の透明化
従来の契約には、後から改ざんされる、あるいは初めから騙す目的で契約が行われてしまうなどの可能性がある、というデメリットが存在しましたが、スマートコントラクトが行われるブロックチェーン技術には「外部からの攻撃に強い」「取引データの改ざんなどの不正な取引が困難になる」「契約の実行履歴が全て公開・記録される」といった特徴があります。
そのために、スマートコントラクトで行われる契約には不正取引の防止と取引の透明化というメリットがあります。
スマートコントラクトの弱点や課題
スマートコントラクトのメリットをいくつかご紹介してきましたが、一方でスマートコントラクトにはいくつかの弱点や問題点も存在します。
まず、スマートコントラクトは契約内容の改ざんが行えないということは、契約内容を後から変更することも困難であることを意味します。書面での契約であれば、契約内容に誤りがあって修正しなければならない場合や、契約に追加したい内容がある場合には、契約当事者の同意のもとでそれらの修正等を後から加えることができます。
しかし、スマートコントラクトの場合には一度成立した契約は速やかに自動的に履行されてしまうために、後戻りができないのです。自動販売機でジュースを買う時に間違えて買ってしまっても、元には戻せない(もう一度ジュースを買うしかない)のと同じです。
他にも、現時点では複雑で多様な契約すべてをスマートコントラクトに置き換えることは困難であったり、一般の消費者がスマートコントラクトで使用されているようなプログラミング言語を理解できないなどの問題があり、今後の技術開発による問題解決が望まれています。
スマートコントラクトと仮想通貨
ここまでスマートコントラクトの仕組みとメリット、弱点・課題についてご説明してきましたが、ここからはスマートコントラクトと仮想通貨の関係についてご説明していきます。
仮想通貨でいえばビットコインが最も有名ですが、アルトコイン(ビットコイン以外の仮想通貨)のうち最も有名なものが「イーサリアム」という仮想通貨であり、イーサリアムには「スマートコントラクトの技術を活用している」という大きな特徴があります。
これにより、例えば予め決めておいたタイミングで入金するなどといった取引が自動的に行われ、かつその取引の記録も自動的に保存されるという利点があるのです。
また、イーサリアムの取引はすべて自動的に保存されるということは、イーサリアムで取引を行えば行うほど自動的に信用情報が蓄積されていくことを意味します。これらの取引内容や信用情報はブロックチェーンに保存されているために、ネットワーク上にいる不特定多数の第三者がいつでもそれらを精査することができます。
これにより結果的に、イーサリアムで行われる取引そのものが高い信頼性を獲得することにつながっていきます。
スマートコントラクトの応用可能性
スマートコントラクトが目指しているのは、ありとあらゆる契約や取引から人の手を排除し完全に自動化することです。
従って、スマートコントラクトの応用可能性は仮想通貨の取引だけには留まりません。
スマートコントラクトの応用が見込まれているシーンとしては、不動産取引などの金融分野での応用のほか「商品等のトレーサビリティ」「IoT」「シェアリングエコノミー」などの金融以外の分野においても活用が見込まれています。中には既に実現している事例もあるので、ここでご紹介いたします。
REX
REXとは、スマートコントラクトを利用して行う不動産取引サービスのプロジェクトです。不動産取引は手間暇のかかる契約のひとつであり、例えば身近な例でいえば、アパートを借りるときにはほとんどの場合、借主は信用の担保として保証人を設定するか保証会社と契約を結ばなければいけませんし、多くの貸主が契約にかかる手間を省くために仲介業者と契約をしているために、仲介手数料も支払わなければなりません。
契約書類のやりとりも仲介業者を介して行うことになるためその分時間もかかり、実際に物件を見つけてから住み始めるまでには数週間もの時間がかかってしまいます。
身近なアパート契約ですらこのような状態ですから、企業等が行っている不動産取引にはもっと多くのコストや時間がかかっています。
それがスマートコントラクトを利用した不動産取引であれば、これらの余計なコストや時間を削減することにつながります。
また、現在は不動産取引に関する情報は不動産業者を介さなければ入手できませんが、これもスマートコントラクトを利用すれば誰もがネットワークから不動産取引の情報を見つけ出すことができるようになると考えられます。
UJO music
UJO musicとは、スマートコントラクトを活用した音楽著作権の管理システム運用プロジェクトです。
日本でも何かと話題になりがちな音楽著作権の管理ですが、実は海外でも同様であり、例えばアーティストに対して正当な対価が支払われていなかったり、あるいは楽曲使用料の管理が不透明などの問題が発生しています。これは音楽著作権の管理自体が、作詞家・作曲家などの著作者、歌手・演奏家などの実演家、レコード製作者、さらには放送事業者など多くの関係者が関わる複雑なものであるからです。
音楽著作権の管理においてスマートコントラクトを活用すれば、楽曲の使用料の徴収から著作権者などのステークホルダーへの分配までの全ての管理を自動的に行うことができるようになるとともに、音楽界の長年の課題である著作権管理の透明性が担保されると期待されています。
これらの事例は、いずれも現時点ではまだ一般的に広がってはいないためにスマートコントラクトとしてのメリットが顕在化しているとはいえませんが、いち早くスマートコントラクトを実用化したという点で大きな意味がある事例です。
まとめ
スマートコントラクトにはまだ解決すべき問題点も存在します。しかし、「ありとあらゆる契約や取引から人の手を排除し完全に自動化する」というスマートコントラクトの将来像は多くの人々にとって大きなメリットをもたらすものですので、今後の技術発展と応用拡大が期待されています。