なぜコインチェックは「Monero」などの匿名通貨の取り扱いを廃止するに至ったか?

なぜコインチェックは「Monero」などの匿名通貨の取り扱いを廃止するに至ったか?

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コインチェックが原因なのか、匿名通貨が原因なのか?コインチェックが「Monero」などの匿名通貨の取り扱いを廃止しなければならなくなった理由を追ってみましょう。

コインチェックの一部仮想通貨取り扱い廃止

コインチェックの一部仮想通貨取り扱い廃止

2018年7月10日、仮想通貨取引所の「Coincheck(コインチェック)」は、2018年6月18日付で取り扱いを廃止していた仮想通貨「Monero(モネロ)」「「Zcash(ジーキャッシュ)」Auger(オーガ)」を保有し続けていたユーザーに対して、日本円への換金を以下のとおりのレートで実施することを告知しました。

Monero:13,596.3 XMR/JPY
Zcash:17,984.52 ZEC/JPY
Auger:3,381.09 REP/JPY

なお、これに先だってコインチェックは上記3種に「Dash(ダッシュ)」を加えた計4種の仮想通貨の取り扱い廃止を2018年5月18日にユーザーに通知していました。この通知があった後ユーザーは廃止が決まった仮想通貨を日本円に換算したり、あるいは他の仮想通貨取引所に移したりなどの対応を各自で選択して行っていましたが、今回の日本円への換金措置はこれらの仮想通貨を保有し続けていた全てのユーザーを対象に行われるものとなっており、これによりコインチェックでの上記4種の仮想通貨の取り扱いは完全に終了することとなりました。

取り扱い廃止となった仮想通貨のほとんどは「匿名通貨」

取り扱い廃止となった仮想通貨のほとんどは「匿名通貨」

今回、コインチェックで取り扱いが廃止となった4種の仮想通貨のうち「Monero」「Zcash」「Dash」の3種の仮想通貨は「匿名通貨」と呼ばれるタイプの仮想通貨です。匿名通貨とは、仮想通貨の送り手と受け手との双方が匿名で、かつ取引量も秘匿して取引を行うことができる仮想通貨のことです。情報を秘匿するための仕組みはそれぞれ異なるのですが、いずれも取引に関するデータをほぼ完全に非公開とすることができるためプライバシーが保護されるという特徴あります。
一方で、匿名通貨にはマネーロンダリングなどの不正行為に利用される可能性があるというデメリットもあります。事実、日本国内でも指定暴力団が匿名通貨を利用して犯罪によって得た収益のマネーロンダリングを行っていた可能性が報じられており、2016年春以降にマネーロンダリングが行われた金額がおよそ300億円にものぼるという報道もなされています。他にも、後述のとおりコインチェックにおけるNEM流出事件のように不正に入手した仮想通貨の行方をくらますために悪用されてしまうこともあります。今回、コインチェックがこれらの匿名通貨の取り扱いを廃止した背景には、このように匿名通貨が犯罪などに使用されるリスクがあることが大きな要因の一つといえるのです。

仮想通貨取引所「コインチェック」とは

仮想通貨取引所「コインチェック」とは

今回の出来事の一連の流れをより深く理解するためには、コインチェックがどのような仮想通貨取引所なのかについても知る必要があります。

コインチェックの特徴

コインチェックは2014年8月にビットコインの取引所として運営を開始しました。2015年12月に株式会社世界と提携しビットコインでの不動産投資を開始、2016年3月にビットコイン決済サービスを導入、2016年9月には国内初となる電気代のビットコイン支払いサービスを開始するなど、仮想通貨の世界でも先進的な取り組みを展開してきた取引所として知られています。また日本国内の取引所では珍しく、後述の「匿名通貨」も取り扱っていた点も大きな特徴です。

仮想通貨NEM流出事件

コインチェックの名前が広く一般にも知られるきっかけとなったのは、2018年1月26日に発覚した仮想通貨NEMの流出事件です。仮想通貨の流出といえば2014年2月に発生したマウントゴックスの件が有名ですが、このときの流出金額は約470億円相当でした。コインチェックの流出事件ではそれを凌ぐ約580億円相当が流出したとされており、仮想通貨の世界だけではなく世間一般でも大きな関心事となり、コインチェックのみならず仮想通貨というコンテンツそのものに対する批判も強くなりました。流出した仮想通貨NEMについては「NEM財団」が行方を追跡していたものの、3月20日に追跡断念を公表。この時点で約580億円相当のうち約350億円程度が他の仮想通貨に交換されたとされているのですが、この際に匿名性の高い「匿名通貨」が使用された可能性があるという見方もされています。

仮想通貨NEM流出後のコインチェックの動き

NEMの流出により巨額の損失を被ったコインチェックですが、2018年1月28日には自己資金によりNEMの保有者全員へ返金を行うことを発表。3月8日には流出事件に関連し金融庁より業務改善命令が出されたものの、3月22日にはそれに対する業務改善計画書も提出。更に4月6日にはマネックスグループ株式会社の完全子会社化及び新経営体制構築を発表し、少しずつ仮想通貨取引を再開してきています。

コインチェックのリリース情報によると、3月8日に金融庁より出された業務改善命令には「取り扱う仮想通貨について、各種リスクの洗出し」「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与に係る対策」(原文を引用)といった内容が盛り込まれていました。コインチェックで扱われていた匿名通貨は不正行為にも悪用されるなどの大きなリスクも抱えていたために、実質的にこれらの匿名通貨の取り扱いについて見直すことを指示する業務改善命令だったと見ることができます。

更にコインチェックは仮想通貨交換業の申請を行っている最中の「みなし業者」であるために、申請を認可してもらうためにも、金融庁から問題視されている匿名通貨の取引廃止は避けて通れないものと判断したと考えられるのです。

取り扱い廃止となった4つの仮想通貨についての特徴

取り扱い廃止となった4つの仮想通貨についての特徴

ここまでご説明したとおりコインチェックでの取り扱いが廃止となってしまった「Monero」「Zcash」「Dash」「Augur」。今回の件について更に理解を深めるためにも、それぞれの特徴を押さえておきましょう。

「Monero」とは

Moneroは2014年4月18日に取引開始された仮想通貨です。エスペラント語(世界で最も普及している人工言語)で「硬貨」や「コイン」という意味があります。2018年9月24日時点のレートは1XMRあたり約13,599円です。

Moneroは「リング署名」と「ワンタイムアドレス」という技術を活用して匿名性を実現している匿名通貨です。リング署名とは、端的にいうと同じタイミングで行われる取引の送金者の情報を一緒くたにまとめてしまう技術です。

送金者をまとめてしまうことで、誰が誰に送金したかが分かりづらくなります。これに加えて、通常の取引で使われる恒常的なアドレスではなく一時的なアドレスを生成して送金を行う「ワンタイムアドレス」技術を併用することで高いレベルでの匿名化が可能になる、という仕組みになっています。

「Zcash」とは

Zcashは2016年10月に誕生した仮想通貨です。2018年9月24日時点のレートは1ZECあたり約14,532円です。

Zcashの特徴は何と言っても「ゼロ知識証明」という技術を用いて匿名性を実現している点にあります。ゼロ知識証明とは端的にいうと「パスワードを用いなくても、ユーザーがパスワードを知っていることを証明する」というものであり、元々は暗号学の分野で提唱されていた理論です。

2017年5月にアメリカの大手銀行「JPモルガン」がZcashとの提携を発表していますが、これはJPモルガンがゼロ知識証明が持つ匿名性に着目して行われたとされており、このことからゼロ知識証明は匿名性=プライバシー保護の観点からいえば特に高い評価を得ている技術であるということができるでしょう。

「Dash」とは

DashはMoneroやZcashに先立ち2014年1月に誕生した匿名通貨です。2018年9月24日時点のレートは1 DASHあたり約22,242円です。

DASHには、PrivateSend(プライベートセンド)という技術が使われています。PrivateSendとは日本語でいうと「匿名送金」。通常、仮想通貨の取引は1対1で行われるところ、同タイミングで実施された送金の情報を一度ミックスしてから送金先に振り分けてしまうことで、誰が誰に送金したかを分からなくしてしまう技術です。

「Augur」とは

Augurは2016年10月に誕生した仮想通貨です。2018年9月24日時点のレートは1 REPあたり約1,475円です。

先に上げた3種の仮想通貨は匿名通貨であったためコインチェックでの取り扱いが廃止されたといえるのですが、Augurは匿名通貨ではありません。ではなぜコインチェックでの取り扱いが廃止となってしまったのでしょうか。

そのヒントは「Augur」という名称にあるといえます。というのも、Augurは日本語に訳すと「占い師」という意味です。端的にいうとAugurにはユーザーが未来を予測してその予測が正しければ仮想通貨で報酬を貰えるという「分散型未来予想」という仕組みが導入されています。この仕組みが日本の金融庁からは「ギャンブルである」と捉えられてしまう恐れがあり、先述のとおり仮想通貨交換業の申請を行っているコインチェックにとっては申請認可の障害になりうると判断されたために、その取り扱いが廃止されたのではないかと考えられるのです。

匿名通貨の今後

匿名通貨の今後

日本国内では匿名通貨の取引を規制する動きが出てきており、コインチェックでの取り扱い廃止もその動きに呼応するものという見方ができます。さらに2018年9月12日には仮想通貨取引所の業界団体である「日本仮想通貨交換業協会」が「匿名性の高い仮想通貨の禁止」「ICO(仮想通貨技術を使った資金調達)については実現可能性を審査」「レバレッジ倍率は4倍までとする」などの自主ルールを定めることを明らかにしており、今後は日本国内の取引所では匿名通貨の取引を行えないことがほぼ確定したといえます。

先述のとおり海外の取引所では取り扱いを行っているものもありますが、特に匿名通貨についてはテロリスト対策などの観点から世界的にみても見方が厳しくなるという予測もあります。

一方で例えばニューヨーク規制当局がZcashの取り扱いを承認するなど、依然として注目度の高い仮想通貨です。いずれにしろ匿名通貨の取引を行いたい場合には、通常の仮想通貨以上に今後の動向を注視しておくべきでしょう。

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